デフォルト・返済遅延の後、投資家の意識・行動はどう変化した?投資家17名に聞いてみた。

デフォルト・返済遅延の後、投資家の意識・行動はどう変化した?投資家17名に聞いてみた。

こんにちは。中田健介です。

今まで利回りの高さやデフォルト(貸し倒れ)率の低さが注目されていたソーシャルレンディングですが、2017年から2018年にかけて、デフォルトや返済遅延が目立つようになってきました。

ソーシャルレンディング投資家は、デフォルトや返済遅延の影響をどの程度受けているのでしょうか。また、そうした事態を経験し、意識や行動に変化はあったのでしょうか。

今回17名のソーシャルレンディング投資家を対象としてアンケートを実施し、調べてみました。

アンケート対象投資家の概要

今回アンケートにご協力いただいた投資家17名の概要は以下の通りです。

  • 現在のソーシャルレンディングへの平均投資額:1,982万円
  • ソーシャルレンディングへの平均投資年数:4.3年
  • 現在投資中の平均事業者数:12.1社

アンケート回答者:ソーシャルレンディング投資家17名(中田健介含む)
アンケート回収日:2018年8月8日

現在のソーシャルレンディングへの最高投資額は8,000万円でした。
また、投資中の事業者数の平均は12.1社で、多くの投資家が複数の事業者で投資をしていることがわかりました。

デフォルト(貸し倒れ)の実態について

これまでいくつかの事業者でデフォルト(貸し倒れ)が発生していますが、実際に損失を被った投資家はどれくらいいるのでしょうか。
アンケート結果は以下の通りです。

<質問1>これまでに投資したファンドがデフォルトになったことはありますか。
(デフォルト:投資した金額の一部または全部が返ってこないことが確定した状態)

<結果>

はい 8名
いいえ 9名

半数近くの投資家が実際にデフォルトを経験しています。

次に、デフォルトとなった金額について聞いてみました。

<質問2>(質問1で「はい」と答えた方のみ回答)
デフォルトになった金額の総額はいくらですか。

<結果>

平均 187万円

デフォルトに遭ったことのある8名のみを対象とした場合、デフォルトになった金額の平均は187万円という結果となりました。決して少なくはない金額です。

ただし、デフォルト金額については、投資家によって「1万円以下」から「800万円」まで幅がありました。

返済遅延の実態について

次に、返済遅延の実態について聞いてみました。

<質問3>現在投資しているファンドの中で、返済遅延中のものはありますか。
(返済遅延:期日を過ぎても投資した金額の一部または全部が返ってこない状態が続いている)

<結果>

はい 14名
いいえ 2名

返済遅延中のファンドを保有している投資家は意外と多く、80%以上の割合にのぼります。

返済遅延中の事業者について具体的に聞いてみました。

<質問4>(質問3で「はい」と答えた方のみ回答)
返済遅延中の事業者はどれですか。いくつでも選択してください。

<結果>

ラッキーバンク 11名
グリーンインフラレンディング 11名
クラウドクレジット 8名

返済遅延中の事業者として最も挙げた人が多かったのは、ラッキーバンクとグリーンインフラレンディングでした。

ラッキーバンクは、2018年2月に業務停止処分を受けた後に多くのファンドが返済遅延の状態となっています。

※ラッキーバンクでは返済遅延していたファンドについて、債権譲渡が決定しました(2018年12月5日時点)。詳細はこちらをご覧ください。

また、グリーンインフラレンディングは、2018年6月に借り手による資金の目的外使用などを金融庁より指摘され、サービス運営会社であるmaneoマーケット社が行政処分を受けた後、8月以降ほぼすべてのファンドで返済遅延が発生しています。現時点で返済の目処は立っていません。

これらのサービスは比較的募集金額の規模も大きく、不安な投資家も多いことと思われます。

また、クラウドクレジットの投資先は新興国が中心で、返済遅延となるケースも見られます。他にもmaneo、SBIソーシャルレンディングでも一部のファンドで返済遅延が発生しています。

ラッキーバンク・グリーンインフラレンディングとも返済遅延が発生したのは2018年なので、今年になってから返済遅延にあった投資家が大きく増えたことは間違いないでしょう。

投資家の意識・行動はどのように変化したか

こうしたデフォルトや返済遅延といったリスクの顕在化を受けて、投資家の意識や行動はどのように変わったのでしょうか。

<質問5>2017年以降にいくつかの事業者で起きている返済遅延・デフォルト発生後、ソーシャルレンディング投資に関して意識の面でどのような変化がありましたか。2つまで選んでください。

<結果>

サービス事業者が信用できなくなった 3名
ソーシャルレンディング投資自体を危険なものだと思うようになった 1名
リターンに対してリスクが高すぎると思うようになった 3名
以前よりもリスクが高まっていると思うようになった 10名
特に変化はない 3名
その他 5名

「以前よりもリスクが高まっていると思うようになった」(10名)、「サービス事業者が信用できなくなった」(3名)、「リターンに対してリスクが高すぎると思うようになった」(3名)といった回答をした人が多く、2017年以前に比べてリスクの高まりを感じている投資家が多いといえます。

一方で、「ソーシャルレンディング投資自体を危険なものだと思うようになった」という意見は1名のみで、こうしたリスクの高まりにも関わらず、ソーシャルレンディング自体に対しては、引き続き魅力を感じている投資家が多いことがうかがえます。

また、その他としては、「事業者リスクを一番意識するようになった」、「事業者が淘汰される時がやってきたと感じる」、「ソーシャルレンディングの業界自体が厳しくなってくるかもしれない」といった、リスクに対して警戒する意見が見られました。

その一方で、「投資家がリスク回避的になっているので、ちゃんとした運営会社に大きくお金が入れられるようになってありがたい」といった、逆にこれをチャンスととらえる意見もありました。

次に、事業者の選択についてどのような変化があったか聞いてみました。

<質問6>同じく、事業者の選択についてどのような変化がありましたか。3つまで選んでください。

<結果>

事業者の実績(営業年数・募集総額など)をより重視するようになった 3名
ビジネスモデル・スキームをより重視するようになった 4名
事業者自体の経営状況(資本金・負債比率・黒字かどうか、上場しているかなど)をより重視するようになった 6名
代表者・経営陣の経歴をより重視するようになった 6名
親会社・出資者の信用度をより重視するようになった 5名
情報の透明性をより重視するようになった 5名
事業者の分散をより徹底するようになった 5名
特に変化はない 3名
その他 2名

多くの投資家が、現在の状況を踏まえて事業者の選択について見直しを図っていることがわかります。
ただ、その方向については回答が分かれる結果となりました。

「事業者自体の経営状況」(6名)、「代表者・経営陣の経歴」(6名)、「親会社・出資者の信用度」(5名)、「情報の透明性」(5名)といった要素を重視して、以前よりも事業者を厳しく選別するようになった投資家がいる一方で、
「事業者の分散をより徹底」(5名)することで変化に対応しようとする投資家もいます。

また、その他としては、「事業者毎の投資金額の配分を再検討している」、「高利回り案件への出資比率を下げることにした」といった行動の変化もありました。

次に、ファンドの選択についてはどのような変化があったのでしょうか。

<質問7>同じく、ファンドの選択についてどのような変化がありましたか。2つまで選んでください。

<結果>

ファンドの投資期間がより短いものを選ぶようになった 6名
担保、保証をより重視するようになった 7名
ファンドの投資テーマをより重視するようになった 2名
ファンド、借り手の分散をより徹底するようになった 5名
特に変化はない 4名
その他 2名

やはり多くの投資家が、ファンドの選択基準についても見直しを図っていることがわかります。

「ファンドの投資期間がより短いものを選ぶようになった」(6名)、「担保、保証をより重視するようになった」(7名)、「ファンド、借り手の分散をより徹底するようになった」(5名)といった意見から、より安全志向のファンド選択をする投資家が増えていると言えます。

その他としては、「1つのファンドに投資する額を小さくした」、「高利回り案件を警戒するようになった」といった意見もありました。

次に、ソーシャルレンディング自体に対するスタンスについて聞いてみました。

<質問8>ソーシャルレンディング自体についてどのような変化がありましたか。1つまで選んでください。

<結果>

ソーシャルレンディングから撤退した 0名
ソーシャルレンディングからの撤退を検討している 0名
ソーシャルレンディング全体の投資額を減らした 6名
特に変化はない 10名
その他 1名

最近のデフォルト・返済遅延の増加を受けて、「ソーシャルレンディング全体の投資額を減らした」という投資家が6名いました。

しかし、やや意外なことに、「ソーシャルレンディングから撤退した」、「撤退を検討している」という人は1人もおらず、ソーシャルレンディング投資自体は継続したいという意向を多くの人が持っていることがわかりました。

必ずしもソーシャルレンディングの将来が悲観されているということではなさそうです。

その他としては、逆に「順次、投資額を増やしている」という意見もありました。

次に、サービス事業者に対する信用面での要望を聞いてみました。

<質問9>サービス事業者に信用度の面で改善してほしい点はありますか。4つまで選んでください。

<結果>

コンプライアンス体制をもっと充実してほしい 11名
貸出審査の仕組み・体制をもっと充実してほしい 7名
担保・保証をもっと充実してほしい 3名
事業者自体の経営状況をもっと開示してほしい 5名
代表者・経営陣の情報をもっと開示してほしい 4名
親会社・出資者の情報をもっと開示してほしい 4名
ファンドの借り手の情報をもっと開示してほしい 13名
担保・保証の情報をもっと開示してほしい 7名
ファンドの運用状況をもっと開示してほしい(デフォルト・返済遅延の状況なども含めて) 8名
その他 1名

サービス事業者に対する要望としては、「ファンドの借り手の情報をもっと開示してほしい」(13名)、「コンプライアンス体制をもっと充実してほしい」(11名)、「ファンドの運用状況をもっと開示してほしい」(8名)といった意見が多く、情報開示やコンプライアンス体制を強化してほしいと望む投資家が多いという結果となりました。

特に最近では借り手が実は事業者の関連会社であるにも関わらずその事実が開示されていなかったり、借り手が資金を目的外に使用していたりといった事例もあるため、これらの改善を求める声が多いものと思われます。

その他としては、「経営者の顔が見えるように説明会を積極的に開いてほしい」という意見もありました。

最後に、政府や行政に対する要望について聞いてみました。

<質問10>法制度および行政に希望することはありますか。2つまで選んでください。

<結果>

借り手情報の開示を可能にしてほしい 16名
事業者に対する検査をもっと数多く実施してほしい 2名
金融商品取引業者の認可時の審査をより厳しくしてほしい 1名
ファンドの運用状況・デフォルト・返済遅延等の発生状況の開示を義務付けてほしい 5名
ソーシャルレンディングに関する法整備を進めてほしい 7名
その他 2名

一番多かったのは、「借り手情報の開示を可能にしてほしい」(16名)という意見でした。この点については改善される方向のようですが、投資家は一日も早い実現を期待しています。

また、「ソーシャルレンディングに関する法整備を進めてほしい」(7名)、「ファンドの運用状況・デフォルト・返済遅延等の発生状況の開示を義務付けてほしい」(5名)、といった意見も多く、発展途上にあるソーシャルレンディング業界に関してルールの整備が求められているといえます。

おわりに

今回ソーシャルレンディング投資スタイルに関するアンケートを実施し、いくつか興味深い結果が得られました。

まず、デフォルトについては約半数の投資家が、返済遅延については8割以上の投資家が経験しています。
これまでは比較的安全な投資と言われることもあったソーシャルレンディングですが、ここにきてリスクが顕在化し、実際に影響を受けている投資家は多いことがわかりました。

こうした状況を踏まえて、投資家は事業者選択・ファンド選択のいずれにおいても、選ぶ基準を厳しくしたり、より分散を徹底したりと安全志向を強めている傾向がうかがえます。

しかし、今回の調査では、ソーシャルレンディング自体から撤退しようという投資家はいませんでした。そうしたリスクを受け入れた上で、それでもなお投資としてのソーシャルレンディングには魅力を感じている人が多いようです。