2017年度の市場規模は1,500億円超にも上り、今後も成長が見込まれている日本のソーシャルレンディング市場。
堅調な市場推移の一方、この1年ほどの間に複数のソーシャルレンディング事業者に対して行政処分が行われ、投資家からはソーシャルレンディング投資に対する不安の声も聞かれます。
今回はソーシャルレンディング業界が抱える課題や投資家が気をつけるべき点、今後の業界の健全な発展のために必要な取り組みなどについて、以下の3社にインタビューを実施し、各社の見解を伺いました。
※以下の紹介はあいうえお順
- クラウドクレジット株式会社 代表取締役:杉山 智行氏
- クラウドバンク株式会社 代表取締役社長:金田 創氏
- ロードスターキャピタル株式会社 代表取締役社長:岩野 達志氏
ーー複数の事業者に行政処分が行われている昨今のソーシャルレンディング業界について、各社に対してどのような点が求められているとお考えでしょうか。
<金田氏>前提として、ソーシャルレンディングは日本の金融史において、比較的新しい商品です。投資家の皆様からお金を集める部分は金融商品取引法、資金需要者へ融資する部分は貸金業法によって統制されていますが、ソーシャルレンディングという金融商品に関する統一的なルールや解釈は、まだ定まりきっていません。
これまでは各社が現行法に照らし合わせつつも、解釈が定まっていない部分は、いわば独自の基準で事業運営がなされていました。そのため、各社の事業運営におけるリスクに対する認識や基準には差がありました。
そうした状況の中でも、投資家保護を目的として制定されている金融商品取引法に照らしてみると、管理がずさんであったり、当局からみて改善を指導しなければならないと思われる部分が見つかった事業者には行政処分が行われています。
行政処分の理由はそれぞれ異なりますが、当局がソーシャルレンディングに関するルールをより積極的に整備していこうとする流れがある中で、投資家の方が不利益を被ると思われる実態があれば、これを是正すべく、個別的な対応として行政処分が下されているのだと思います。
<岩野氏>募集時の適切な説明、資金需要者の管理、口座分別管理と会計区分の徹底など、投資家の大事な資金を預かり運用するということに対して誠実に責任を果たしていく態勢があるかという点を厳しく求められていると思います。
当社の場合は、金融商品取引法の下でビジネスを行なってきたメンバーが多数在籍していることから、いわゆる審査・モニタリングをはじめとした金融商品取引業者として、業務執行について高い規範意識を持って取り組んでいると自負しておりますが、各事業者間ではその度合いにグラデーションがあるのが実情だと思います。
<杉山氏>あえて1点挙げるとすれば、より適切な情報開示が求められていると考えています。
昨年、今年と行政指導を受けた事業者の大半が、募集時の表示と実態が異なることについて指摘を受けています。その背景には、兼ねてから業界内で課題とされていた融資先匿名化があります。
一部報道によると、この融資先匿名化は年内にも廃止される可能性があるようですが、もし情報開示がより詳細にできるような状態であれば、今般、複数の事業者で指摘された“誤解を生ぜしめるべき表示をする行為”は、主に同業他社にすぐ見抜かれてしまう事からそもそも避けることができていただろうと思います。
ーー仮に匿名化が廃止となった際の業界における影響についてはどのような考えをお持ちでしょうか。
<杉山氏>先述したように、融資先の匿名化はソーシャルレンディング業界の課題だと考えており、融資先の匿名化が廃止されるとすれば、歓迎できることだと思います。
既存の融資先企業との兼ね合いはもちろんありますが、当社としては融資先匿名化が必須でなくなった場合は、積極的に現在より多くの情報を開示をしていきたいと考えています。
より詳細な案件情報を開示することで、期待利回りが高い案件におけるリスクを適切に把握できるなど、投資を検討しやすくなるなどのメリットがあります。
<岩野氏>そもそも弊社は2014年のサービススタート時から、金融業者として、貸金業法の解釈に基づく融資先の匿名化には疑義を呈しており、案件情報は開示できるようにすべきだと主張して参りました。
ですので、時間は経ってしまったものの情報開示ができるようになるという方向性自体は歓迎するべきものだと思っております。ただ、一方で、もし強制的になんでもかんでも情報開示をしなければいけないとなると、業界全体にとっては足枷となるおそれもあります。
したがって、その程度や方法などについては、基本的なルールを作った上で、ある程度は事業者の判断にゆだねることが望ましいと考えております。
<金田氏>投資家の方々にとってはなるべく多くの情報が開示されていたほうが好ましいと思っており、例えば不動産担保であれば、場所や抵当権などについて詳細な情報開示はあってしかるべきだと思います。
資金需要者の情報が開示されることのメリットは、投資家の皆様が適切にリスクを把握した上で投資判断ができるようになることです。
したがって、情報開示の程度については、投資家の皆様が購入しようとする商品に付随するリスクを正確に理解するために必要か、という観点から決定されるべきであると思います。
例えば担保一つとっても、その情報の粒度は事業者によってばらつきがあります。具体的な基準があれば、事業者が情報公開の度合いで悩む必要がなくなりますし、投資家も過不足なく必要な情報を得ることができるようになります。
他方、融資先名の開示が義務となると、本来は良好な担保の提供が可能な、よい融資先の方々がソーシャルレンディングのサービスを利用しにくくなるのではという懸念もありますので、義務化についてはある程度慎重に行うべきだと思っています。
ーー行政処分が下された事業者の中には、親会社/グループ企業に対して不適切な融資を行なっていたところもあります。これについては、どのように考えていますか。
<岩野氏>親会社/グループ会社に対する融資は、本来であれば各案件の情報開示ができていれば問題ないことです。
例えば関係会社に融資していても、商品説明の中で情報が適切に開示されていれば、投資家の方々への投資判断に必要な情報提供という点では十分ですし、実際にそれを理解した上で投資が行われると思います。
一方で、関係会社だからといって、身内に甘い審査、モニタリングを行うことは問題です。これについては現状、事業者のモラルに頼らざるを得ないところがあります。
ーー各事業者に対する行政処分は様々な理由で行われています。ソーシャルレンディングが構造的に抱えている課題はあるのでしょうか。
<金田氏>つまるところ、投資家の皆様にとって必要な情報を得るために、事業者のそれぞれの基準が統一されておらず、各事業者の自主基準に頼らなければならないのは、構造的課題といえます。
例えば、「担保」という用語は当社では「第三者対抗要件を具備している場合」のみに用いており、第三者対抗要件を具備しない担保については「その他保全」という表記を行なっていますが、これはあくまでも当社内のルールです。
また、融資先からの元本回収リスクをどの程度まで投資家に許容させるべきか、つまりどれくらいのリスクがある融資先の案件まで募集を行うかという部分は、事業者の裁量に委ねられています。
最終的にリスクを負うのは事業者ではなく、投資家の皆様であるという点は仕方のないところなのかもしれませんが、とはいえ、万一の場合に担保から回収できるかの可能性は事業者が十分精査すべきだと思います。
すなわち、当社は情報を開示していれば、リスクの高い融資先の案件でも許されるとは考えておらず、貸し倒れなどの事態が生じた場合、適切に担保から資金回収ができる可能性が高いと判断した案件のみを提供するべきだと考えています。
まずは、融資先の匿名化が廃止・制限される動きとなることは大きな進歩ですが、融資先の審査などにおける基準は事業者のモラルに依るところとなるのが、ソーシャルレンディングの課題と言えると思います。
ーー融資先(資金需要者)に対する審査・モニタリングとして、具体的にどのようなことを実施しているのでしょうか。
<杉山氏>クラウドクレジットでは一番短い案件でも3ヶ月、長い案件だと6ヶ月を超える期間をかけて、融資先現地国の事業者のオフィスを訪問しての確認も含め審査をしています。
事業の実態をオフィスを回りながら各部の責任者の方に話を聞き、審査プロセスで提出いただいた書面上の情報の全体像と現場の方から得た情報との整合性を確認します。ひとつひとつ現地調査を行うのは、非常に手間のかかる作業となりますが、より確実性を高めるために全案件で実施してます。
また新しく投資管理部及び投資管理委員会を新設し、投資家の皆様の資産を健全に運営するための体制強化も進めています。
<岩野氏>決算期ごとに決算書をいただくことは当然ですが、その他に年に1回以上の現地確認、担保不動産の賃貸借条件の更新などを契約書内に折り込んでいます。
融資先企業に対しては反社チェックを始めとした厳格な審査・モニタリングを実施の上、担保余力のバランスも逐一確認しながら、ときには物件売却活動のアドバイスなど出口戦略についてのコンサルティングまでも行なうこともあります。
ーー投資家がソーシャルレンディング投資をする際に気をつけるべきことや参考にしたほうがよいポイントはありますでしょうか。
<金田氏>まずは事業者の過去のファンドでの実績は参考にしていただきたいです。
これまでの完済実績を公開している事業者は多く、やはり完済というのはそれだけ資金需要者を開拓し、返済まで完了する能力があるという参考の一つになるのではないでしょうか。
ただし、見た目は回収ができているファンドのように見えても、実態として、同じ資金需要者に同一担保にて再度融資を実施し、借り換えを繰り返し行なっている案件もあるのではないかと思います。
もちろん借り換え時に担保価値の査定を厳格に行い、回収として問題ないと判断している場合もあるので一概には問題があるとはいえませんが、一方で、実質的には回収不能の案件を再融資でつないでいるというおそれもあるので、その点は投資家の皆様は開示された情報をしっかりと読み込んで、注意して投資を行なっていただければと思います。
加えて、担保の内容についてもしっかり確認するべきです。
例えば、担保といっても、資金需要者自身の未上場株である株式を担保にしているケースなどは、担保の流動性も低く、その価値も定まっていないため、本当に融資額に見合うだけの担保価値があるのかは疑わしいことがあります。
また、保証が設定されている案件でも、保証人の返済能力を考慮すると、融資した元本の保全としての要件は満たしていない場合もあります。
とは申し上げたものの、現状は担保や保証の価値まではWebサイト上で明かされていないケースの方が多く、その担保価値を投資家が検証するのは至難のわざです。結局は、その事業者が信頼に足る事業者であるかという点が大切になっていると思います。
<岩野氏>事業者の運営の姿勢に着目していただきたいです。
事業者が開催するセミナーに行ってみたり、メディアやブログのインタビュー記事などを確認したりすることで、経営者の考え方を知ることができます。
情報開示やリスクに対する認識、事業運営の姿勢などは、事業者ごとに違いがあります。インタビューの内容やWebサイト上での説明方法などを確認し、安心して投資を行うに足る事業者であるかを判断すると良いでしょう。
なお当社は、より経営の透明性を徹底するために、2017年9月に東証マザーズ市場に上場しました。
より多くの人に安心してサービスをご利用いただくためには、運営会社の健全性を詳細に説明し、ご納得いただく必要があります。経営実態や財務状況を皆様に厳しくチェックいただいた上で、公正な事業運営を進めていくためには、第三者の厳しい監査が入る上場が適切と考え、株式公開に至りました。
ーー万が一自分の投資しているファンドで返済遅延や貸し倒れが起きた場合、投資家としては各事業者に対しどのような対応をとるべきでしょうか。
<岩野氏>前提として、返済遅延や貸し倒れを避けるべく各社継続的な努力はするべきですが、一方でデフォルトが起こらないことはむしろ不自然であるという点について、投資家の皆さまにご理解いただく必要があります。
投資には必ずリスクが伴います。大切なのは、返済遅延や貸し倒れが発生した際に、どれくらい資金を回収できる能力があるのかという点です。
返済遅延は融資先の都合で起こるものですが、資金回収については、事業者の実力が試されるところです。どのようなプロセスを経て、どれくらいのお金を回収できたのかという点を見ていただきたいと考えています。
<杉山氏>投資家の方には事業者に対するご意見、ご要望を積極的にいただきたいと思っています。
当社は日本の他の事業者様と比較すると、リスクも期待リターンも高い性質の案件を取り扱っており、実際に返済遅延となっている案件もあります。このような点があることから、投資家の方々から叱咤激励のお言葉をいただくこともあります。
当社としては、返済遅延やデフォルトが起こることを前提に、総合的にはプラスとなるような成果を目指しており、そうしたスタンスについては事前に丁寧なご説明を行うことで、投資家の皆様にご理解いただいた上で投資をしていただくことを心がけております。
投資家の皆様にご納得いただくためには、コミュニケーションは欠かせないと思っておりますし、皆様のご意見があるからこそ、情報の伝え方について、試行錯誤してよりわかりやすいレポーティングをさせていただけることにつながると考えています。納得がいかないことはご納得がいくまで、事業者に伝えていただければと思っています。
<金田氏>もし事業者から与えられる情報が不十分だと考えるのであれば、投資家の方々から事業者に対して全てのファンド出資者に対して適切な情報開示を求めるべきですし、その権利もあると思います。
返済遅延などが起こった場合には、各社、遅延理由や進捗状況などについて説明をしますが、投資家の方々としては納得できるものとそうで無いものがあると思います。そうした点がある場合は、積極的に事業者へ問い合わせをするなどして、より詳細な説明を求めて然るべきです。
ーー今後、ソーシャルレンディング業界全体が健全に発展していくためにはどのような取り組みが必要だと考えていますでしょうか。
<金田氏>貸金業自体は昔から行われている事業ですが、投資家の皆様がその専門家というわけではありません。そのため、仮に匿名化が廃止され、案件の全ての情報が開示されたからといって、そのリスクを投資家に押し付けてどんどん募集を行なってよいのかどうかは賛否両論あると思います。
現時点では、あくまでも事業者が融資のプロとしてその融資基準を策定し、案件自体の妥当性や担保の保全性を厳格に審査していますが、短期的には今後もこうした取り組みが続くのではないでしょうか。
各事業者で担保の評価や案件情報の基準が異なる部分もまだまだあるため、業界全体で基準を揃えるよう、業界団体を通じて取り組んでいくべきだと思います。
<杉山氏>不満や疑問点などがあれば、率直にお伝えいただけるような関係性を投資家の皆様との間で築くことができれば、事業者が独善的な方向に傾きづらくなると思います。
セミナー、懇親会などを通じて、各事業者が投資家の皆様と直接コミュニケーションを取れるような場を引き続き多く持っていければと思っています。
<岩野氏>投資家の皆様から預かったお金で取れるリスク許容度は、自己勘定投資に比べて当然低く見積もるべきです。各事業者は、投資家の大事な資産を扱っているという自覚を持ち、より慎重な運用を心がける必要があります。
ここ最近、ソーシャルレンディング業界への新規参入はあまり多くないですが、市場の健全な発展のためにも、意欲があり体制が整っている企業の参入は歓迎です。
事業者が増えることでマーケット全体が拡大すれば、それだけ、多くの人にソーシャルレンディングを知っていただく機会が増えます。参入企業が増えることで、競争が促され、さらに業界が盛り上がっていくことを期待しています。