ソーシャルレンディングに対する為替リスクの影響と対策

ソーシャルレンディングに対する為替リスクの影響と対策

こんにちは、A氏です。

ソーシャルレンディングの海外案件は利回りが高いなどの魅力がある反面、カントリーリスクや為替リスクなど、国内案件では考慮が不要なリスクも多数あります。
参考記事:ソーシャルレンディングで海外ファンドに投資する際の注意点

今回は、海外案件のリスクの中から為替リスクについて深堀りしたいと思います。

為替リスクと投資の関係

そもそも為替リスクとは何かを知るところから始めて、投資家への影響を見ていきましょう。

為替リスクとは

為替リスクとは、各国間の通貨交換の基準となる為替レートの変動によって、資産価値が上下動する現象を指します。

テレビのニュースで、「円高が進み、輸出企業の収益を圧迫しました」と解説されることがありますが、まさにこれが為替リスクで生じる事象です。
「円高が進み」が為替レートの変動で、「輸出企業の収益を圧迫」が為替リスクです。

為替リスクは同一の通貨における商品取引や投資で問題になることはありません。
あくまで2国以上の通貨交換が生じる時のみ懸念するべき事項です。

為替リスクが投資に与える影響

為替リスクは投資にも影響を与えます。

例えば外貨建て預金、外国株式や投資信託、FXなど、日本人になじみのあるこれらの投資商品には為替リスクがつきものです。
ここからは為替リスクとそれがもたらす事象の具体例を2つ見てみましょう。

例1:外貨建て預金のケース

ソーシャルレンディングに対する為替リスクの影響と対策

上図の例は、元手100万円で年間利回り3%の外貨建て預金に投資した例です。
1年後、外貨の金利3%分にあたる3万円を加えた103万円が戻ってきそうですが、実際に戻ってきたのは92万7千円です。

外貨建て預金を預け入れた時の為替レート = 100円
1年後に戻ってきた時の為替レート = 90円
だったため、10円も円高に変わった影響で投資家はトータルで損をしてしまいます。

例2:外国株式のケース

ソーシャルレンディングに対する為替リスクの影響と対策

上図の例は、元手100万円で外国株式1銘柄にドル建て投資をした例です。
1年後、外国株式は値下がりしてしまい5%の損失を出してしまいました。
5%の損失分にあたる5万円を差引いた95万円が戻ってきそうですが、実際に戻ってきたのは104万5千円です。

外貨建て預金を預け入れた時の為替レートよりも、1年後に戻ってきた時の為替レートの方が10円も円安に変わった影響で、投資家はトータルで利益を得ることとになりました。

ここまで為替リスクが投資家にとってプラスにもマイナスにも作用する2つの例を見てきました。

将来の為替レートを予想できれば良いのですが、為替は多くの要因が複雑に絡み合って動くため、プロのアナリストでも予想をするのは困難を極めます。
為替リスクは予想するものでなく、いかに上手に付き合っていくかが重要だと私は考えています。

為替リスクのソーシャルレンディングへの影響は?

ソーシャルレンディングで投資する際も、為替リスクへの考慮が欠かせません。

クラウドクレジットやガイアファンディングなどを通じて海外の企業・個人へ融資する案件であれば、常に為替リスクが「どこか」に生じることになります。
「どこか」とあえて言及したのは、為替リスクを負うのが常に投資家ではないためです。

ソーシャルレンディングでは融資先が為替リスクを負うケースもあります。
その場合は投資家に対する直接的な為替リスクの影響はなくなります。

ソーシャルレンディングで海外案件に投資する場合、「為替リスクは誰が負うか?」について必ず確認しましょう。

もし為替リスクを投資家が負うのであれば、投資家は以下の2つのことを確認したうえで、投資判断することをおすすめします。

  • 為替リスクを負っても十分な案件利回りであるか?すなわち、想定される為替リスク(変動幅)以上の利回りが期待できるか?
  • 為替リスクの軽減措置が取られているか?

後者の軽減措置は、通称:為替ヘッジと呼ばれています。

為替ヘッジという言葉は新聞やニュースでよく聞きますが、仕組みやメリット・デメリットなどを正しく理解している人は少ないのではないでしょうか。

為替ヘッジを知れば投資の幅がグンと広がるので、以降、為替ヘッジについて詳しく解説します。

為替ヘッジとは?

「ヘッジ」という言葉には「回避する」という意味があり、為替ヘッジとは「為替リスクを回避する」ことを指します。

為替ヘッジを実現する方法として、為替予約やFXなどの金融デリバティブ商品を使ったヘッジ方法がありますが、一般的には為替予約が使われます。

為替予約とは、「外貨に交換するのと同時に、将来一定のレートで外貨から交換できる権利を予約する」という方法です。

以降具体例を使って詳しく見てみましょう。

為替予約なしの例

ソーシャルレンディングに対する為替リスクの影響と対策

為替予約は貿易取引等においてよく使われる手法です。
為替ヘッジをしたい企業が金融機関と先渡取引を行うことで、将来の為替レートを予約する方法です。

例えば、海外に製品を輸出するA社が、3か月後に500ドル受け取る契約が成立したとします。この時点の為替レートが1ドル100円ならば、A社は3か月後に「500ドル×100円=50,000円」を受け取ることを期待するでしょう。

しかし3か月の間に為替が円高に進み、1ドル95円になっていたらどうでしょうか?A社が最終的に受け取る金額は「500ドル×95円=47,500円」となり、当初想定より2,500円も売上不足になってしまいます。

為替予約”ありの例

ソーシャルレンディングに対する為替リスクの影響と対策

為替予約を行えば、上記のような為替レートの変動で不利を受けるリスクを軽減できます。

先ほどのA社の例で、3か月後に500ドル受け取る契約が成立した時点で為替予約を行い、3か月後に今と同じ為替レート:1ドル100円で受け取る権利を得たとします。
「今と同じ為替レート」と言っても為替予約には手数料がかかるため、手数料を差し引いた1ドル99円で為替予約をできたと仮定します。

3か月後になって、為替が円高に進んで1ドル95円になっていたとしても、A社は為替予約のレート:1ドル99円、すなわち「500ドル×99円=49,500円」を受け取ることができました。
為替予約”なし”の例と比べると、2,000円(製品代金の4%にあたる)も得することになります。

ここまでの内容で、為替ヘッジが為替リスクの対応策として有効であることを理解できましたか。
では為替ヘッジは投資家にとって万能な方法と言えるのでしょうか。

答えは「No」です。為替ヘッジにはいくつかデメリットがあります。

為替ヘッジのデメリット

為替ヘッジは為替レートの変動リスクを軽減してくれる反面、いくつかのデメリットがあります。

為替ヘッジコスト

ソーシャルレンディングの為替リスク・為替ヘッジ

為替ヘッジのデメリット1点目は、相応のコストがかかることです。

為替予約では、対象の通貨間の金利差相当分の為替ヘッジコストが生じます。
米ドルが日本円より+1.0%金利が高い場合、予約レートは現在の為替レートより1.0%ほど円高ドル安に設定されます。

現在のドル・円の為替レートが100円だとすると予約レートは99円となり、この差額1円が為替ヘッジにかかるコストです。
仮に1年後に為替レートが100円のままだったとしても予約レートの99円で決済する必要があるため、為替ヘッジコストが要因で為替ヘッジなしより利益が減ります。

為替差益もヘッジ

ソーシャルレンディングの為替リスク・為替ヘッジ

為替ヘッジのデメリット2点目は、為替差益もヘッジ(回避)してしまうことです。
為替リスクは為替レートの変動によって資産価値が上下動する現象を指すので、損失を出す時もあれば利益を出す時もあります。

日本からドル建てで海外商品に投資する場合、返済時に投資した当初より円安・ドル高が進めば、本来は為替差益を得ることができます。
しかし、為替ヘッジを使って将来受け取る為替レートを予約している場合、現在の為替レートが自分に多くの利益をもたらす可能性があっても、予約時のレートが適用されてしまいます。

為替ヘッジがリスクとなる可能性

為替ヘッジの最後のデメリットとして、リスク軽減として取り入れたはずの為替ヘッジがリスクになる可能性がある点を取り上げます。

為替ヘッジ付き金融商品では、運営者が為替ヘッジ業者と為替予約を行うのが一般的です。
しかし、為替予約取引先のヘッジ業者が倒産した場合、為替予約の権利は行使できなくなる可能性があります。

このような為替ヘッジ業者の信用リスクを予防するため、為替ヘッジ付きの金融商品に投資する場合は、以下を確認することをおすすめします。

  • 為替ヘッジ業者の評価
  • 為替ヘッジ業者とのスキームに無理がないか
  • 為替ヘッジ業者の信用リスクが起きた場合の保全策

為替リスクとソーシャルレンディング

最後にソーシャルレンディングと為替リスクとの関係についてご紹介します。

ソーシャルレンディング事業者ごとの為替リスク対策の違い

ソーシャルレンディングの海外案件は融資先が海外であるため、為替リスクが生じます。
現在、海外案件を扱うソーシャルレンディングは以下の4事業者です(2017年8月時点)。

  • クラウドクレジット
  • ガイアファンディング
  • アメリカンファンディング
  • クラウドリアルティ

上記のソーシャルレンディング事業者ごとに為替リスクへの対応方法が違うため、投資する際は注意する必要があります。
まず為替リスクを負うのが投資家かどうかのシンプルな形で分析してみましょう。

投資家の為替リスク ソーシャルレンディング事業者
リスクあり クラウドクレジット
クラウドリアルティ
リスクなし ガイアファンディング
アメリカンファンディング

この表から、投資家が直接的に為替リスクを負うのはクラウドクレジットとクラウドリアルティであることが分かります。
それでは、この2社が扱う通貨と為替ヘッジ方法を確認してみましょう。

事業者名 通貨 為替ヘッジ
クラウドクレジット ドル
ユーロ
ルーブル・・・他
・ヘッジあり、なしの案件が混在
・ヘッジありの案件は為替予約でヘッジ
クラウドリアルティ ユーロのみ ・全案件でヘッジなしのため、投資家が為替リスクを負う

クラウドクレジットは同じファンドであっても、為替ヘッジ「あり」と「なし」の2種類の案件があります。為替リスクを受け入れるかヘッジするかは、投資家の判断次第です。

一方でクラウドリアルティは全案件で為替ヘッジを行わないため、ユーロ/円の為替リスクを投資家が負います。
投資家はファンドの利回りだけでなく、ユーロ/円の為替リスクを十分に考慮したうえで投資判断を下す必要があります。

まとめ

最後に今回の投稿をまとめます。

  • 為替リスクとは、各国間の通貨交換の基準となる為替レートの変動によって、資産価値が上下動する現象を指す。
  • 為替リスクを回避する方法に為替ヘッジがある。為替ヘッジは為替レート変動の影響を軽減できるが、ヘッジコストが必要なことや利益を逸する可能性がある等のデメリットも伴う。
  • ソーシャルレンディングも為替リスクが生じる。現在、海外案件のファンドを扱うソーシャルレンディング事業者は4社あり、うちクラウドクレジットとクラウドリアルティの2社は為替リスクを投資家が負うため、慎重な投資判断が必要である。

為替リスクがあるファンドに投資する際はリスクも考慮した上で行いましょう。