日本のソーシャルレンディングは個人投資家から小口で集めたお金を大口化し、借り手企業に融資するという法人融資のかたちで、その市場規模が急速に成長しています。
昨今はメディアへの露出も増え、知る人ぞ知る存在から、徐々に一般的にも認知され、ソーシャルレンディングで資産運用を行う人が増えている状況にあります。
欧米でインターネットを利用した個人間融資のモデルとして立ち上がったソーシャルレンディングですが、今回は日本のソーシャルレンディング市場規模やその拡大の背景と歴史について解説します。
目次
日本のソーシャルレンディング市場規模
法人融資としての日本国内におけるソーシャルレンディング市場規模は2008年から少しずつ増え、2013年頃から成長の勢いを増しています。
法人融資では不動産系の中小事業者や何らかの事業資金の調達を行うものが多いようです。
日本のソーシャルレンディングの市場規模は、下記のように拡大しています(いずれもフィンテナ調べ、以下同様)。
【日本ソーシャルレンディングの市場規模】
2014年 211億円
2015年 279億円
2016年 747億円
2017年 1,700億円
2018年 2,044億円
2019年 3,066億円
2020年 4,599億円※見込み
2020年には4,599億円を超え、その成長の勢いがさらに増しています。
日本のソーシャルレンディング市場規模の成長率
ソーシャルレンディング市場規模の成長率は、右肩上がりとなっており市場規模が拡大し続けています。
この勢いは2020年になっても衰えておらず、引き続き市場規模は拡大傾向にあります。
ソーシャルレンディング参入企業数の増加
市場規模拡大とともに、ソーシャルレンディング業界への参入運営会社(ソーシャルレンディング事業者)も増えています。
2014年には6社しか存在していなかった事業者も、2015年には10社、2016年には20社と、中小事業者も含め多くのソーシャルレンディング事業者が参入しています。
2020年現在も参入事業者は増え続けており、丸紅グループの一社である丸紅都市開発も不動産投資型クラウドファンディング事業への参入を発表するなど、大手企業の参入も増加傾向にあります。
市場規模と事業者数の拡大を背景に、日本におけるソーシャルレンディング事業者の種類と市場も少しずつ多様化しています。当初は不動産案件を主に扱う事業者ばかりでしたが、再生エネルギー案件や海外案件ほか、案件の種類も増加しています。
日本のソーシャルレンディング市場は、1兆円規模のファンドが存在する投資信託市場に比べるとまだまだ小さいですが、投資家のニーズをくみ上げながら、着実に市場を拡大しています。
その他にも新規参入事業者の数が増え、業界の平均利回りも高まっています。
新規参入事業者は投資家獲得のため、事業運営初期においては自社の利益を少なくしても投資家登録することを促す傾向があります。
昨今ではキャッシュバックキャンペーンを実施する事業者もあり、このような背景で平均利回りは高くなっているようです。
【ソーシャルレンディング事業者一覧はこちら】
・日本のソーシャルレンディング事業者・会社の一覧をまとめてみた
初期の国内ソーシャルレンディング市場
それでは以降、ソーシャルレンディングの歴史を振り返ってみましょう。
歴史を振り返り、海外と日本のソーシャルレンディング市場規模を比較することで、成長余地が計り知れます。
欧米を中心とする海外のソーシャルレンディング市場は、インターネットを利用した個人間金融=Peer to Peer(P2P)レンディングを中心に市場規模が拡大しました。
日本ではソーシャルレンディング業界のパイオニア的存在のmaneoが、2008年にソーシャルレンディングサービスを開始。
サービス開始当初は、欧米のようにインターネット上で個人間のお金の貸し借りが出来るPeer to Peer(P2P)サービスを提供していました。
しかしながら、利用者の伸びが大きくなく、また延滞の発生も相次いだため、2011年に個人間金融から撤退しています。
なお、日本でP2P金融が普及しなかった理由については、消費者金融やカードローン他、個人向け金融のインフラが海外に比べて整備されており、P2Pサービスの広がる余地が少なかったこと。
また、既存のインフラが整っているため、新規サービスのP2Pサービスには多重債務者等、信用力の劣る利用者が相次ぎ延滞が多発したといった理由が語られています。
【P2Pレンディングについて知りたい方はこちら】
・海外で急拡大するP2Pレンディングとは?
少しずつ市場規模が伸びてきた国内市場規模
P2Pレンディングによる市場規模拡大はできなかった日本のソーシャルレンディング。その後、法人向け融資、特に不動産向け融資にその活路を見出すことになります。
日本では、古くからノンバンクが銀行融資の賄いきれない業界等の融資を行ってきた歴史があります。
不動産についてはバブル経済の最盛期にノンバンクが比較的高めの金利で不動産融資を行っていました。
しかし、バブル崩壊とともに、銀行系列に入るなどの再編が行われて、ノンバンクの多くが姿を消します。
それ以降、かつてのノンバンクの機能を代替する機関が存在しない状況が続いていました。
こうした背景の下、リーマンショック後の不動産価格上昇期に、かつてのノンバンクの役割を担うような形で日本のソーシャルレンディング業界は発達。
ソーシャルレンディングは、不動産業界に対して高い金利ながらも柔軟な資金を提供することで、その最初の立ち位置を見出すことになりました。
昨今、急成長中のソーシャルレンディング市場規模
不動産関連にその最初の立ち位置を見つけた日本のソーシャルレンディングですが、その後、徐々に活躍の場を拡大。
海外案件、再生エネルギー案件、企業への融資案件等、市場規模の拡大とともに様々な案件が増えています。
様々な種類の案件の立ち上がりとともに、各案件の利回りも多様化。
当初は年利数%の案件が多かったものの、利回り10%を超える国内案件も目にするようになり、今や投資家のリスク許容度に応じて様々なソーシャルレンディング投資の選択ができるまでになっています。
また、市場の立ち上がりと言う観点で転機となったのは2016年です。
それまでは知る人ぞ知る存在となっていたソーシャルレンディングが、各メディアに取り上げられる機会が増加。
メディアへの露出とともにソーシャルレンディング = 融資型クラウドファンディング = 投資商品の一種、との認知も徐々に進むことになりました。
投資家の増加に伴い、投資家ブロガーもソーシャルレンディングについて紹介するようになり、認知拡大に貢献しています。
ソーシャルレンディング事業者数の増加、メディア露出機会の増加による一般への認知度アップがそれぞれシンクロし、日本におけるソーシャルレンディング市場は2016年に大きな成長を見せ、2020年にはついに市場規模4000億円を突破しました。
猛威を振るっているコロナウイルスの大流行により、非対面化や新しい資金調達の需要が急速に増加する中で、ソーシャルレンディングは更に注目を集めることになるでしょう。
欧米と比較してもさらに市場規模の伸びが期待できる日本のソーシャルレンディング
ソーシャルレンディング先進国とも捉えられるアメリカでは、2015年における市場規模が227億ドル(約2.5兆円)に達しています。
一方、伸びたとはいえ日本では2017年にようやく1,000億円の市場規模が予想されている程度。その市場規模の差は日米間で見積もっても20倍以上です。
世界最大の経済規模を持つアメリカですが、日本との経済力の差は20倍の開きがあるわけではありません。
一足先に大きな市場が成り立ったアメリカのソーシャルレンディング市場ですが、2015年以降も市場は拡大を続けていると言われています。
アメリカのソーシャルレンディング市場規模から考えれば、まだ日本市場の伸びる余地は充分にあると考えられるのではないでしょうか。
各国のソーシャルレンディング特性を大きく分けると、欧米ではP2Pの個人間金融中心、中国は企業融資中心、日本は不動産融資中心です。
その国に応じた形で市場規模を拡大してきたソーシャルレンディングですが、アメリカとの差からは日本市場拡大の余地はまだ十分あるとも考えられます。
【海外ソーシャルレンディングについて詳しく知りたい方はこちら】
・ソーシャルレンディング海外事情
ソーシャルレンディング市場の拡大の先頭にいた3社
ここまでの流れを見ると、ソーシャルレンディングは個人向けという過去を経て、現在の市場規模まで成長してきたことがわかります。
ソーシャルレンディングサービスを初めて展開したのがmaneo。続いて、SBIソーシャルレンディング、クラウドバンクです。
この3社は現在(2020年6月)も業界を牽引する存在であり、ソーシャルレンディング市場規模の拡大はこの3社なしには語れないといえるでしょう。
まとめ
maneoがP2Pレンディングで頓挫した際、「日本でソーシャルレンディングは普及しない」と言われた時期もありました。
しかし、その後に不動産案件を中心とした法人融資モデルへ方向転換を行うことで、ソーシャルレンディング市場は拡大しています。
ただし日本のソーシャルレンディング市場は欧米と比べると、その規模はまだ小さく、市場拡大の余地はまだ十分にあるとも考えられます。
その国に応じた形で発展を遂げてきた各国のソーシャルレンディング市場ですが、今後日本のソーシャルレンディング市場はどのような形で拡大を続けることになるのでしょうか。
ソーシャルレンディング市場規模の伸び、そしてどのような形で市場は伸びていくのかといった点は投資家も含めた関係者にとって、今後も非常に興味深いテーマとなるでしょう。