日本と海外のソーシャルレンディング市場の違いは?現状や将来の成長性について解説

日本と海外のソーシャルレンディング市場の違いは?現状や将来の成長性について解説

ソーシャルレンディングは欧米をはじめとして世界的に盛り上がっていますが、昨今は中国そして日本におけるソーシャルレンディング市場も成長しております。しかしながら、一言でソーシャルレンディングと言っても、その国の事情によって成長要因は異なります。

実際に欧米は個人間融資、中国は企業融資、日本は不動産融資を中心に市場が盛況してきております。

今回は日本を中心に、各国のソーシャルレンディング事情について見ていきます。

欧米の個人間融資からスタートし、世界に広がるソーシャルレンディング市場

欧米の場合、ソーシャルレンディングはインターネットを利用した個人間融資として語られることが多く、P2Pレンディング(peer to peer lending)と言われることもあります。

欧米では現在もこの個人間融資がソーシャルレンディング市場の中心を占めており、個人がソーシャルレンディングサイトを通じて、資金の貸し手にも借り手にもなることができます。

昨今では、市場拡大とともに、不動産ローンや自動車ローンなど、さまざまなローン分野にもソーシャルレンディングが拡大してきています。

特に2020年までに南北アメリカでは世界の45%のシェアとなることが予測されており、ますますソーシャルレンディングが注目を浴びることでしょう。※1

中国では法人向け融資を中心に爆発的に市場が拡大

中国のソーシャルレンディング事情
欧米の次にソーシャルレンディング市場が盛り上がったのは中国です。

個人間融資が中心の欧米に対して、中国では法人向け融資を中心として市場が伸長しています。

共産主義国家の中国では、銀行の融資は国家の厳しい規制の下で行われています。
しかしながら資本主義経済を取り入れて経済発展をしている中国において、現行の銀行制度では中小企業の資金需要に応じることができていない状況となっています。

そのような状況下で、インターネットを通じて個人からお金を集めることが可能で、中小企業の資金需要に柔軟に応えられるソーシャルレンディングは、一躍中国国内で広まることになりました。

しかしながら、中国ではソーシャルレンディング事業者自体が玉石混交状態となっており、投資家の資金持ち逃げ事件が発生するなど、市場が急拡大一方でひずみも生じているというのが、中国のソーシャルレンディング市場の姿となっています。

日本のソーシャルレンディング、個人向けローン事業はmaneoが頓挫

実は欧米同様、日本におけるソーシャルレンディングも個人向けローン事業からはじまっています。

現在日本のソーシャルレンディング業界で最大手のmaneo社(maneoマーケット株式会社)は、2008年のソーシャルレンディングサービスの開始当初は、欧米のソーシャルレンディングをモデルに個人対個人のローン事業をスタートさせました。

しかしながら、利用者数の低迷及び多数の返済延滞の発生を背景に、2011年個人向けローン事業から撤退し、現在に至っています。

maneo社の個人向けローン事業が軌道に乗らなかった理由は多数考えられますが、市場環境として日本では既存の個人ローンのサービスインフラが欧米に比べると発達している、という点も挙げられます。

日本には消費者金融及びカードローンという個人が資金の借入をするためのインフラがすでに整っています。
特にカードローンはカードさえ作ることができれば、スムーズに資金の借入を行うことができます。よって、資金の借り手である個人は、ソーシャルレンディングを利用する必要性が欧米ほど強くなかったと考えられます。

不動産案件を中心に発展を遂げる日本のソーシャルレンディング市場

不動産案件を中心に発展を遂げる日本のソーシャルレンディング市場
maneo社は、個人向けローン事業を撤退したものの、その後開始した事業性融資が軌道に乗り、現在の業界最大手ソーシャルレンディング事業者の地位を築くことになります。

日本のソーシャルレンディング市場は、その融資対象を個人から法人に向けることで、成長していきます。特に不動産融資を中心として、日本のソーシャルレンディング市場は盛り上がっていきました。

不動産事業は売買や開発で多種多彩な資金が必要とされる世界です。
そんな中、バブル崩壊から2000年代初頭の金融危機、そしてリーマン・ショックを経て、不動産に融資することができる金融機関は激減してしまいました。

以前であれば不動産融資はノンバンクが中心として融資を実行していましたが、近年そのほとんどのノンバンクが銀行系列入りをしました。
その結果、現在の不動産関係の資金需要に対して、既存の金融機関のみでは十分資金を供給できない状況となりました。

そのような中でソーシャルレンディング市場が日本においても立ち上がり、以前のノンバンクが担っていた役割の一部をソーシャルレンディングが代替する形で拡大してきたという面があります。

また、日本におけるソーシャルレンディングはリーマンショック後に立ち上がっており、景気回復期における旺盛な不動産需要期のタイミングだったことから、ソーシャルレンディングの需要が高まっていた背景も見逃すことができません。

上記のように、ノンバンクという以前の不動産金融のメインプレイヤーが不在の中、不動産市況の回復期がソーシャルレンディング市場立ち上がりのタイミングと合致することとなり、日本のソーシャルレンディング市場は不動産関係の融資を中心に成長してきたのではないでしょうか。

日本のソーシャルレンディングの市場規模

日本のソーシャルレンディングの市場規模について、矢野経済研究所が発表した資料があります。矢野経済研究所によると日本のクラウドファンディングの新規プロジェクト支援額(市場規模)は下記のように推移しています。

  • 2012年度 7,161百万円
  • 2013年度 12,429百万円
  • 2014年度 21,610百万円
  • 2015年度 36,334百万円
  • 2016年度 47,787百万円(見込) 

※2。なお、上記数字は購入型、寄付型、投資型(ファンド型)、貸付型(ソーシャルレンディング)のクラウドファンディング全体での市場規模となっています。

このうち、2015年度のクラウドファンディングにおける類型別構成比は、貸付型(ソーシャルレンディング)88.7%、購入型9.0%、投資型(ファンド型)1.9%、寄付型0.4%となっていることから、クラウドファンディング市場の大半はソーシャルレンディングが占めていると予想されます。

よって2015年度は約325億円、2016年度の見込は約430億円が日本のソーシャルレンディングの市場規模と推定することができます。
実際にフィンテナ調べでは、2016年度の市場規模は533億円まで成長しています。

日本のソーシャルレンディング事業者は現状23社

日本のソーシャルレンディング事業者についての詳細な資料などは公表されていないものの、フィンテナ調べでは日本で現在23社のソーシャルレンディング事業者が活動しています。

アメリカではレンディングクラブ(LendingClub)というソーシャルレンディング専業での上場企業も現れていますが、将来日本においてもソーシャルレンディング専業での上場企業の登場が期待されます。

日本のソーシャルレンディング事業者でも、上場企業がソーシャルレンディング事業に参入したり、ソーシャルレンディング事業と他にいくつかの事業をもって上場したりなどはありますが、ソーシャルレンディング専業で上場した企業は日本ではありません。

各国の資金ニーズに合わせた成長を遂げるソーシャルレンディング

各国の資金ニーズに合わせた成長を遂げるソーシャルレンディング
欧米では個人間融資を中心に成長するソーシャルレンディングですが、中国では法人、日本では不動産というように、それぞれ異なる姿が見られます。

金融分野は国によって規制もニーズも異なります。例えば人口減少で新車販売台数の伸びない日本では自動車ローンの数字が伸びない一方、人口が増加しており新車販売台数の好調な米国では自動車ローンは今も伸び続けています。

ソーシャルレンディング市場も同様、各国のニーズに合わせて市場が成長していると捉えることができるでしょう。

まだまだ市場が拡大している世界のソーシャルレンディング市場ですが、引き続き各国の資金ニーズに合わせた分野での成長を遂げるのではないでしょうか。

日本から海外の案件へ投資していくことも可能

日本のソーシャルレンディング市場も徐々に拡大していますが、分散投資を意識すると日本の案件だけに投資するのはリスクがあるといってもいいでしょう。

日本のソーシャルレンディング事業者では、海外の案件を取り扱っている事業者もあります。日本だけを意識することなく、世界中の案件を比較してソーシャルレンディングを見ていくことが、近い将来より簡単にできるようになるかもしれません。

まとめ

以上、ソーシャルレンディングについて海外事情を振り返りました。

インターネットの普及により、これまで充分に資金が行き渡っていなかった分野へも、徐々に資金が流れるようになっています。
また、FinTechの流れの中で、これまで規制がありコストも高かった分野での借り入れも、ソーシャルレンディングを用いることで低コストで資金の借り入れができるようにもなりつつあります。

欧米及び中国ではソーシャルレンディング市場の拡大が続いており、日本においてもまだまだ市場の成長余地があるといえるでしょう。
将来の日本のソーシャルレンディング市場の拡大余力も期待できるのではないでしょうか。


※1:Global Peer-to-peer Lending Market 2016-2020
※2:矢野経済研究所 国内クラウドファンディング市場の調査を実施(2016年)