同じリスク性の金融商品ではあっても、随分と異なる株とソーシャルレンディング。株は投資、ソーシャルレンディングは融資だから違うのは当たり前、と仰る方は、その段階で既に結構なソーシャルレンディング通だったりします。
現在のところ、ソーシャルレンディングの投資家層と株式投資の投資家層は重複することが多いようです。株式投資も手がけている、もしくは過去手がけていた方が多いソーシャルレンディングの投資家層。
そんな状況もあるので、今回は改めて株式投資とソーシャルレンディング投資の違いについて考えてみました。
目次
リスク性の金融商品である株式とソーシャルレンディング
株式投資にリスクは付き物です。株で○万円損した、という話はあらゆる所で聞くことができます。よって株式投資=リスクがある、というのは既に殆どの方が認識しています。
一方のソーシャルレンディングはどうかといえば、その元本保全性の高さゆえ、リスクある金融商品という意識が欠落している方も一定数いるような気がしてなりません。
急激に拡大している業界だからこそ、今後のことも見据えて、しっかりとソーシャルレンディング=リスクのある金融商品との認識を広げていくことが重要だと筆者は考えています。
株とソーシャルレンディング、いずれもリスク性の金融商品という点は同じであっても、様々な面で異なっています。
そんな株式投資とソーシャルレンディング投資の違いを大きく分けて3点ピックアップ致しました。株式投資の経験者も多いソーシャルレンディング投資の世界、株式投資と比べることで、またその特徴を浮かび上がらせることもできます。
①株は投資、ソーシャルレンディングは融資
株式投資とソーシャルレンディング投資の最大の違いは、株は”株式”への投資である反面、ソーシャルレンディングは”融資”への投資という点。
株式投資の場合は企業の株を対象としているので、株式の価格=株価が上がれば全てがそのまま利益になります。一方で株価が下がれば、それはそのまま損失になりますし、株式を発行している会社が倒産すれば、株式の金銭的価値はゼロになってしまいます。
一方でソーシャルレンディングの投資対象は”融資”となります。お金を借りたい企業が、インターネットを経由して、お金を運用したい個人とつながる、というのがソーシャルレンディングの原型であり、ソーシャルレンディングの投資家の資金は事業者を通じて資金需要者である主に中小企業に融資されることになります。
資金の借り手は利息をつけて、定期的もしくは期限に一括して、資金を返済します。資金の出し手は一定期間の後に、借り手の返済に問題が生じなければ当初決めた利息を手にすることができます。ただし利率以上の収益を得ることはできませんし、借り手が破産等して資金を返せなくなれば、資金の出し手は損失をこうむることになります。
融資であるため、ソーシャルレンディングは借り手が予定通り返済を行えば、いくら儲かるか、という数字を最初にある程度計算することができます。一方で株式は値段が上下しており、どれだけ儲けられるかを事前に予測するのは困難です。価格の変動によっては損する可能性もあります。
また、株は価格変動により価格が上昇すれば、思わぬ利益を得ることが出来ますが、ソーシャルレンディングでの儲けは、最初に設定された利率によって天井が決まっています。よって数字が予測できる反面、数字の上振れは期待できません。
②相場性商品かどうか(価格変動の有無)
金融商品として比較した場合、株とソーシャルレンディングの一番の違いは、相場性商品かどうか=価格変動があるかどうかという点です。
株や投資信託は日々価格が動きます。価格が上がれば嬉しいものですし、価格が下がれば残念な気分になる、コレは誰しも当たり前に持っている心理です。尚、投資金額が多くなればなるほど、この心の振れ幅が大きくなります。借金をして株式投資を行うと(絶対にお勧めしませんが)、仕事が手に付かなくなる等、日常生活に影響を及ぼすケースもあります。
この価格変動が、株式投資の面白い部分でもあり、株式投資で資産を形成している方も実際に存在しています。ただし日々の価格変動になじめない、という理由で株式投資は一切手がけていない方も多数いるのが現状です。
一方のソーシャルレンディングでは、価格の変動は一切ありません。ソーシャルレンディングは最初に投資を行った後は、予定通りの利回りが出るかどうかを待つのみです。期限一括分配の場合は、毎月の分配も発生しないので、期日にお金が返ってくるのを待つだけとなります。
資金の借り手の状況がおかしくなった場合は、ソーシャルレンディング運営会社から報告がありますが、順調に進んでいる場合は特に何も連絡がないケースが多いです。
よってソーシャルレンディングは日々の価格変動に頭を悩ます必要はありませんし、それどころか、最初に投資を行えば返金されるまで投資家に出来ることは殆どないため、非常に暇な投資、と言えます。
ソーシャルレンディング投資を値動きが無く安心して見ていられる、と考えるか、暇過ぎる、と考えるかで、個々人の投資そのものに対する考え方が明らかになります。
株式投資は逃げられるがソーシャルレンディングは逃げられない
価格変動が最大のリスクとも言える株式投資ですが、メリットもあります。それはいつでも逃げることができる=途中換金が可能、という点です。
株式投資では利益が出ていようと、損失になっていようと、投資家が決断すればいつでも保有株式を売却して投資資産の現金化を行うことができます。利益が出ている時は何の問題もありませんが、投資時に比べ株価が下がってきて、もうこれ以上の損をするのが嫌になれば、損切りを行うことである程度の資金回収は可能です(中には連続ストップ安で途中換金できないケースもありますが)。
イザと言う時に逃げる=現金化できる、というのが株式投資を始めとする相場性商品のメリットとなります。
一方のソーシャルレンディングは投資を行った後は、期限が到来するまで途中換金はできません。融資先が借り入れを途中で早期に返済した場合、予定より早い現金化となるケースもありますが、いずれにしても投資家サイドの判断によって途中で資金を引き上げる、ことは事実上不可能となっています。
例えば、銀行が1年後の返済予定で資金を貸し出した際、銀行側の都合で融資期間の途中に資金の返却をもとめることは難しいでしょう。仮にそれを言ったところで、借り手となる企業側は、元々1年の契約でしたよね、と言い返すことができます。企業側は1年後の返済に向けての資金計画を作成しており、それを途中で変更することは事業存続に大きな影響を与えます。
ソーシャルレンディングの場合もそれと同様に、投資家側の都合で途中換金することができないのです。投資先の状況が悪くなっている、と運営会社から報告を受けても、指をくわえて見ていることしかできません(ソーシャルレンディング運営会社が回収に向けた努力を行います)。
ソーシャルレンディングは途中換金できない、と言う部分は最大のリスクです。ソーシャルレンディングへの投資に興味がある場合は、必ず覚えておきましょう。
③税制が異なる
株式投資であれソーシャルレンディングであれ、利益が出れば税金を納める必要があります。投資の代表的存在である株式投資は長い歴史を経て、独自の税制が形作られています。
一方、ソーシャルレンディング投資はまだ知名度は低く、独自の税制を持っている訳ではありません。
一般的な株式投資の場合(NISAを除く)は、申告分離課税方式で、通常の所得とは別の所得として課税されます。更に株式投資の場合は源泉分離課税方式を選ぶことができ(個人投資家の殆どが源泉分離課税方式を選択しています)、利益に対する税金は証券会社が自動的に納める仕組みが出来上がっています。株式投資で損失が発生して、その損失を翌年以降に繰り越す場合を除くと、源泉分離課税方式の場合は確定申告をする必要はありません。よって株式投資は“税金を納める”という観点では非常に手間のかからない投資となります。
尚、FXや先物投資の場合も申告分離課税方式となりますが、源泉分離課税方式は選択できないため、年間20万円以上の利益が出た場合は確定申告を行う必要があります。
一方、ソーシャルレンディング投資ですが、まだ新しい投資商品ということもあり、申告分離課税方式が認められておらず、ソーシャルレンディング投資からの利益(=所得)は雑所得の扱いとなります。簡単に言えば、副業で上げた収入、というイメージになります。
雑所得は課税の方法としては総合課税方式で課税されます。総合課税は通常の所得に対する税率と同じ税率が適応されるため、所得の金額が多ければ多いほど税率は高くなります。
税率は所得が195万円以下の場合は5%ですが、徐々に税率は増えてゆき(累進課税、と言います)、4,000万円を超えると45%となります。
※詳しくは、国税庁のサイトをご覧ください
雑所得は20万円を超えるまでは確定申告の必要はありません。ただし他の副業等で収入がある場合は、合算での計算となりますのでご注意ください。
ちなみに殆どのソーシャルレンディング運営会社は利益に対して20%の源泉徴収を行っており、ソーシャルレンディングで20万円を超える収益がなく確定申告の必要がなくとも、自動的に利益の20%は源泉徴収されています。
ソーシャルレンディング投資も申告分離への移行が普及の条件では?
総合課税の場合、給与所得が多いと、それだけ多くの税金を納める必要があり、また20万円を超える収益が発生すると確定申告の手間も発生します。その点、源泉分離課税が選択できて税金の支払いに手間のかからない株式投資は、税金面では他の投資商品と比べると一日の長があります。
以前はFXも総合課税が中心でしたが、2012年の税制改正により申告分離課税に一本化されています。申告分離課税制度への一本化がFX普及の一つの大きなきっかけになっているため、ソーシャルレンディング業界においても、総合課税から申告分離課税への移行がなされると、ソーシャルレンディングの投資商品としての認知度や使い勝手も更に向上するのではないか、と考えています。
ただしFX業界は長年申告分離の一本化を主張していた(申告分離課税方式と総合課税方式が並列していた)、という歴史があるため、ソーシャルレンディング投資の申告分離課税化は、それ程機運が盛り上がっていないこともあり、まだしばらく時間がかかるのではないかと考えられます。
まとめ
株式投資は“投資”であるのに対し、ソーシャルレンディング投資は“融資”に対する投資であり、そもそも別物ですが、金融商品に投資をするという観点で、その違いを大きく3点ピックアップして解説致しました。
“日々の値動きがある株”と“日々の値動きがないソーシャルレンディング”。値動きのスリルが堪らない方にはソーシャルレンディング投資は全く面白くない投資でしょうし、日々の値動きに煩わされたくない方にはソーシャルレンディング投資は有力な選択肢となりえます。
ソーシャルレンディングって儲かりそう、と思って飛びつく前に、投資の代表者的存在の株との比較をすると、その特徴がより分かりやすくなるのではないでしょうか。ご参考下されば幸いです。