こんにちは。中田健介です。
日本でソーシャルレンディングサービスがスタートしてから、2018年で10年になります。(maneoがサービスを開始したのが2008年です)
しかし、ソーシャルレンディングは一般の投資家に対してまだまだ浸透しているとは言えません。
なぜソーシャルレンディングの認知度は低いのでしょうか。
その理由について考察してみたいと思います。
ソーシャルレンディングの認知度は23.6%
2018年8月に、MMD研究所が金融関連のサービスに関する調査の結果を発表しました。※1
15歳~69歳の男女5,000人を対象としたこの調査結果によると、ソーシャルレンディングの認知度は以下の通りです。
- 利用経験のある人:2.0%
- 利用を検討している人:1.6%
- 認知している人:20.0%
- (上記合計):23.6%
ソーシャルレンディングの認知度は、家計簿アプリ(58.2%)、仮想通貨取引所(55.7%)と比べてもはるかに低い結果となりました。
なぜソーシャルレンディングの認知度は低いのか

国内でソーシャルレンディングサービスが開始してから10年になるにも関わらず、なぜ認知度は20%程度なのでしょうか。
市場環境や各プレイヤーなどいくつかの観点から考えてみたいと思います。
借り手の詳細な情報が未開示
日本ではソーシャルレンディングのサービス自体を規定する法律が現状存在せず、金融商品取引法と貸金業法に基づいてサービスが運営されています。(一部例外もあり)
そして、貸金業に基づく要請により、借り手の詳細な情報を開示することができないため、ソーシャルレンディングが、投資家から「怪しい」「危険」といったイメージを持たれる要因となっており、認知度が低い理由の一つに挙げられるでしょう。
・【融資先匿名化を取り巻く議論】ソーシャルレンディングが抱える制度的課題とは
ここ数年好景気の時期が続いており、キャピタルゲイン型投資が注目を集めていた
2012年〜2017年頃まで、アベノミクス効果などで株高・円安の傾向が続いていました。
そのため、多くの個人投資家は株式やFXなどキャピタルゲイン型の投資に注目しており、ソーシャルレンディングのようなインカムゲイン型の投資には、あまり目が向かなかったのではないでしょうか。
逆に、今後景気が悪くなるタイミングではソーシャルレンディングが脚光を浴びることになるのかもしれません。
仮想通貨などと比べて派手さがない
ソーシャルレンディングと同じく、最近登場した金融サービスとして「仮想通貨」があります。
しかしながら、先述したMMD研究所の調査結果によると、仮想通貨について「利用経験のある人」「利用を検討している人」「認知している人」の合計は55.7%であり、ソーシャルレンディングの2倍以上となっています。
なぜソーシャルレンディングと仮想通貨で、これほど認知度に差があるのでしょうか。
これは、仮想通貨の値上がり幅の大きさで話題になりやすい面があったためと考えられます。
「短期間で価格が何十倍にもなった」「何億円も儲けたビットコイン長者が多数いる」といったニュースは話題になりやすいのですが、それと比べるとソーシャルレンディングはどうしても派手さに欠け、話題性に乏しい面があるのは否定できません。
購入型・寄付型クラウドファンディングと混同されることが多い
ソーシャルレンディングは融資型クラウドファンディングとも呼ばれ、クラウドファンディングの一種ではありますが、購入型や寄付型と比べると目的や特徴の面では大きな違いがあります。
ただし、日本では購入型や寄付型の方がイメージで先行しており、多くの人が「クラウドファンディング」というと購入型や寄付型を思い浮かべるようです。
そのため、ソーシャルレンディングが購入型や寄付型クラウドファンディングと混同され、投資商品・金融商品として見られていないケースが散見されます。
大企業など有名な事業者が少ない
現状、ソーシャルレンディングを手掛ける事業者の多くは、一般的に知名度の高い企業ではありません。
例えば大手の銀行や証券会社などがソーシャルレンディングに参入するといったニュースでもあれば認知度が高まると思われますが、現状ではそうした予定はないようです。
また、雑誌・新聞・TVなどのマスコミ向けに広告を出す事業者もほとんどなく、これも認知度が低い原因と考えられます。
ソーシャルレンディングに関する正確で役立つ情報が少ない
ソーシャルレンディングに関する正確で役立つ情報が少ないことも、認知度が低い原因として挙げられます。
新聞や雑誌でソーシャルレンディングが取り上げられることはまだ少なく、ほとんどがサービス概要の説明に留まっています。
ネット上ではようやく専門メディアなども登場してきましたが、タイムリーで正確、かつ投資に役立つ内容はまだあまり多くないのが現状です。
有名な個人投資家が少ない
株式・FX・不動産などには、短期間で資産を何倍にも増やした実績のある、いわゆる「カリスマ個人投資家」がいて、雑誌などでよく取り上げられたり、その投資手法を紹介する著書を何冊も出版したりしています。
どの投資商品でも、そうしたカリスマ投資家が人気を高めるのに大きな役割を果たしていると言えるでしょう。
しかし、ソーシャルレンディング投資家には、そこまで知名度の高い「カリスマ投資家」はおそらくまだいないと思われます。
ソーシャルレンディングはその性質上、どんなに頑張っても上げられる利益は年利10%程度で、短期間で資産を何倍にも増やすといったことはできません。だれがやってもさほど利回りには差がないため、「カリスマ投資家」が生まれにくいのです。
ある程度資金を持っている投資家でないと興味を持たない
先述した通り、株式・FX・仮想通貨などでは短期間で資産を何倍にも増やすことも、場合によっては可能です。こうした話には多くの人が興味を惹かれます。
しかし、ソーシャルレンディングのようなインカムゲイン型の投資商品は、ある程度資金を持っている方でないと興味を持ちづらいでしょう。仮に10万円しか投資資金のない人が年利8%のソーシャルレンディングに投資しても、年間で8,000円(税引前)しか金利が得られません。
ソーシャルレンディングに興味を持つのは少なくとも数百万円程度の資産を持つ人に限られてくると思われます。
終わりに

今回ソーシャルレンディングの認知度が低い理由について、法制度・経済環境・事業者・投資家など様々な観点から考察してみました。
若干ネガティブな内容が多くなってしまいましたが、関係者の努力により改善できる部分も多いと思います。業界全体の規模は非常に速いペースで拡大をしているのも事実です。
それにつれて認知度も徐々に広まっていき、いずれかの時点でブレイクスルーを迎えるものと思います。
そのためには、業界全体が健全な発展を遂げ、投資家の信用を積み上げていくことが何よりも重要ではないでしょうか。
※1:利用経験が多い金融関連サービス、10代は「銀行アプリ」、20代~60代は「オンラインバンキング」
サービス開始10年目にも関わらずソーシャルレンディングの認知度はなぜ低いのか
こんにちは。中田健介です。
日本でソーシャルレンディングサービスがスタートしてから、2018年で10年になります。(maneoがサービスを開始したのが2008年です)
しかし、ソーシャルレンディングは一般の投資家に対してまだまだ浸透しているとは言えません。
なぜソーシャルレンディングの認知度は低いのでしょうか。
その理由について考察してみたいと思います。
目次
ソーシャルレンディングの認知度は23.6%
2018年8月に、MMD研究所が金融関連のサービスに関する調査の結果を発表しました。※1
15歳~69歳の男女5,000人を対象としたこの調査結果によると、ソーシャルレンディングの認知度は以下の通りです。
ソーシャルレンディングの認知度は、家計簿アプリ(58.2%)、仮想通貨取引所(55.7%)と比べてもはるかに低い結果となりました。
なぜソーシャルレンディングの認知度は低いのか
国内でソーシャルレンディングサービスが開始してから10年になるにも関わらず、なぜ認知度は20%程度なのでしょうか。
市場環境や各プレイヤーなどいくつかの観点から考えてみたいと思います。
借り手の詳細な情報が未開示
日本ではソーシャルレンディングのサービス自体を規定する法律が現状存在せず、金融商品取引法と貸金業法に基づいてサービスが運営されています。(一部例外もあり)
そして、貸金業に基づく要請により、借り手の詳細な情報を開示することができないため、ソーシャルレンディングが、投資家から「怪しい」「危険」といったイメージを持たれる要因となっており、認知度が低い理由の一つに挙げられるでしょう。
・【融資先匿名化を取り巻く議論】ソーシャルレンディングが抱える制度的課題とは
ここ数年好景気の時期が続いており、キャピタルゲイン型投資が注目を集めていた
2012年〜2017年頃まで、アベノミクス効果などで株高・円安の傾向が続いていました。
そのため、多くの個人投資家は株式やFXなどキャピタルゲイン型の投資に注目しており、ソーシャルレンディングのようなインカムゲイン型の投資には、あまり目が向かなかったのではないでしょうか。
逆に、今後景気が悪くなるタイミングではソーシャルレンディングが脚光を浴びることになるのかもしれません。
仮想通貨などと比べて派手さがない
ソーシャルレンディングと同じく、最近登場した金融サービスとして「仮想通貨」があります。
しかしながら、先述したMMD研究所の調査結果によると、仮想通貨について「利用経験のある人」「利用を検討している人」「認知している人」の合計は55.7%であり、ソーシャルレンディングの2倍以上となっています。
なぜソーシャルレンディングと仮想通貨で、これほど認知度に差があるのでしょうか。
これは、仮想通貨の値上がり幅の大きさで話題になりやすい面があったためと考えられます。
「短期間で価格が何十倍にもなった」「何億円も儲けたビットコイン長者が多数いる」といったニュースは話題になりやすいのですが、それと比べるとソーシャルレンディングはどうしても派手さに欠け、話題性に乏しい面があるのは否定できません。
購入型・寄付型クラウドファンディングと混同されることが多い
ソーシャルレンディングは融資型クラウドファンディングとも呼ばれ、クラウドファンディングの一種ではありますが、購入型や寄付型と比べると目的や特徴の面では大きな違いがあります。
ただし、日本では購入型や寄付型の方がイメージで先行しており、多くの人が「クラウドファンディング」というと購入型や寄付型を思い浮かべるようです。
そのため、ソーシャルレンディングが購入型や寄付型クラウドファンディングと混同され、投資商品・金融商品として見られていないケースが散見されます。
大企業など有名な事業者が少ない
現状、ソーシャルレンディングを手掛ける事業者の多くは、一般的に知名度の高い企業ではありません。
例えば大手の銀行や証券会社などがソーシャルレンディングに参入するといったニュースでもあれば認知度が高まると思われますが、現状ではそうした予定はないようです。
また、雑誌・新聞・TVなどのマスコミ向けに広告を出す事業者もほとんどなく、これも認知度が低い原因と考えられます。
ソーシャルレンディングに関する正確で役立つ情報が少ない
ソーシャルレンディングに関する正確で役立つ情報が少ないことも、認知度が低い原因として挙げられます。
新聞や雑誌でソーシャルレンディングが取り上げられることはまだ少なく、ほとんどがサービス概要の説明に留まっています。
ネット上ではようやく専門メディアなども登場してきましたが、タイムリーで正確、かつ投資に役立つ内容はまだあまり多くないのが現状です。
有名な個人投資家が少ない
株式・FX・不動産などには、短期間で資産を何倍にも増やした実績のある、いわゆる「カリスマ個人投資家」がいて、雑誌などでよく取り上げられたり、その投資手法を紹介する著書を何冊も出版したりしています。
どの投資商品でも、そうしたカリスマ投資家が人気を高めるのに大きな役割を果たしていると言えるでしょう。
しかし、ソーシャルレンディング投資家には、そこまで知名度の高い「カリスマ投資家」はおそらくまだいないと思われます。
ソーシャルレンディングはその性質上、どんなに頑張っても上げられる利益は年利10%程度で、短期間で資産を何倍にも増やすといったことはできません。だれがやってもさほど利回りには差がないため、「カリスマ投資家」が生まれにくいのです。
ある程度資金を持っている投資家でないと興味を持たない
先述した通り、株式・FX・仮想通貨などでは短期間で資産を何倍にも増やすことも、場合によっては可能です。こうした話には多くの人が興味を惹かれます。
しかし、ソーシャルレンディングのようなインカムゲイン型の投資商品は、ある程度資金を持っている方でないと興味を持ちづらいでしょう。仮に10万円しか投資資金のない人が年利8%のソーシャルレンディングに投資しても、年間で8,000円(税引前)しか金利が得られません。
ソーシャルレンディングに興味を持つのは少なくとも数百万円程度の資産を持つ人に限られてくると思われます。
終わりに
今回ソーシャルレンディングの認知度が低い理由について、法制度・経済環境・事業者・投資家など様々な観点から考察してみました。
若干ネガティブな内容が多くなってしまいましたが、関係者の努力により改善できる部分も多いと思います。業界全体の規模は非常に速いペースで拡大をしているのも事実です。
それにつれて認知度も徐々に広まっていき、いずれかの時点でブレイクスルーを迎えるものと思います。
そのためには、業界全体が健全な発展を遂げ、投資家の信用を積み上げていくことが何よりも重要ではないでしょうか。
※1:利用経験が多い金融関連サービス、10代は「銀行アプリ」、20代~60代は「オンラインバンキング」