こんにちは、ファイアフェレットです。
ソーシャルレンディング、また事業投資型クラウドファンディングにおいて、投資家への分配金は融資先から支払われる「利息」から生み出されます。
本記事では、利息がどのような事業から生み出されているのかについて解説します。
この事業について、本記事では「返済原資」と呼ぶことにします。各サービスを運営する会社のファンドが具体的にどのような事業を行う会社(以下事業者)に融資・投資されているのか、そのビジネスへの理解を深めることは、投資を検討する上で有効です。
その理解を深めておけば日々耳にするニュースからでも、そのファンドのリスクとリターンの妥当性を検討することが可能となるでしょう。
目次
ソーシャルレンディングの返済原資は大きく分けて7つ
ソーシャルレンディングにおける返済原資は大きく分けて7つあると考えています。
- 不動産のリノベーション・売却
- 不動産の運用
- 事業性(運転)資金
- 自然エネルギー発電
- 国内外の個人向け融資
- 社債・貸付債権の購入
- M&Aの資金
今回は上記7つの解説に加えて、投資判断をする際のポイントを紹介します。
不動産のリノベーション・売却
不動産のリノベーション・売却を目的としたファンドは、ソーシャルレンディングにおいて最も一般的なテーマと言えるでしょう。
投資家から集めたお金をもとに、対象不動産の購入・リノベーションを行い、投資家や不動産オーナー、企業へ売却することで利益を出し、この利益から投資家に償還・分配がなされます。
投資対象の不動産が担保になっていることが大半であることも特徴の一つです。
なお、売却が目的ではなく、銀行から融資が受けられるまでというファンドも存在します。
不動産に価値がない状態では銀行から融資を受けることが難しいですが、建設後に価値のある不動産になれば銀行から融資を受けることができる可能性が高くなるためです。
投資判断のポイント、注意点
不動産のロケーション
例えば、地方よりは都内・都市圏、郊外よりは駅チカ、こうした不動産の方が流動性は高い、つまり売れやすく、リファイナンス(後述)になりにくいことが期待できます。
海外不動産の場合は、景気が良く不動産需要が旺盛な地域を見極める必要があります。
不動産の役割
例えば大規模商業施設やヘルスケア施設の開発を目的としたファンドも存在します。これらは土地ではなく、建物の持つ役割が重視される傾向にあります。
都市、地方にかかわらず、必須のインフラ機能を持つ施設の場合は、一定の需要を見込めると考えられるでしょう。
リファイナンスであるかどうか
万が一、不動産の売却がファンドの運用期間中に売却できなかった場合、ファンドの償還が終わる前に新たにファンドを募集して、そのお金で償還が終わったファンドの償還を行うことがあります。このことをリファイナンス(借り換え、俗に言うおかわり)と言います。
ポンジスキームのように思えるかもしれませんが、事業に実態があり、運営会社がその収益で償還を行うつもりがあるのならば、リファイナンスは適法です。
もちろん、運営会社もこうしたリファイナンスには極力ならないように不動産運営に気を配り、ファンドの運用期間を予定売却時期よりも長めにするなど工夫をしています。
しかしながら、ある運営会社ではリファイナンスであることが投資家に伏せられたまま、売却できない不動産に投資するファンドの償還、募集が続けられ、結局運用中のほぼ全ファンドで遅延となってしまったことがあります。
現状、リファイナンスである場合はそのことが明記された上で行われています。リファイナンスは前の不動産ファンドが期間内にエグジットできなかったファンドということを念頭に入れて、リスクとリターンを計算する必要があります。
なお、銀行から低金利で融資してもらうまで、つなぎの資金を募集するファンドにおいても「リファイナンス」と書かれていることがあります。混同しないようにご注意ください。
予定通りに不動産が売却できなかった際の新規ファンド再募集はリファイナンスの代表的な例です。後述するファンドも同様のリファイナンスはあるものとしてお考えください。
不動産の運用
不動産の売却ではなく、投資先不動産の賃貸収入などを返済原資に充てるファンドも存在します。
不動産のリノベーション・売却よりも低い利回りになる傾向がありますが、手間のかかる賃貸経営を運営会社にお任せでき、少ない資金で間接的に不動産経営ができるというメリットがあります。
投資判断のポイント、注意点
運用先不動産の価値、入居率
不動産を運用するファンドは、不動産特定共同事業法に基づき運用されています。そのため、投資先不動産の情報はある程度まで公開されています。
物件情報を詳細に調べ、住むのに魅力的であるか、実際の入居率はどのくらいか、どの程度の入居率で収益がマイナスになるのか?をよく検討しましょう。
賃貸住宅市場の動向
これから日本の人口は確実に減少します。空き家増加も大きな問題となっています。近年サラリーマンの不動産賃貸経営が盛んとなり、明らかに賃貸住宅は供給過剰です。もちろん人がいる限り、住居の需要は必ずあり、しっかりとした利益を、堅実な賃貸住宅運営会社はあげています。
このことをよく踏まえた上で、ファンドを厳選しましょう
※
クラウドリアルティの京町家再生プロジェクトのように、宿泊施設の運用収益を当初の返済原資として充て、運用期間の最後にその不動産を売却してその収益で償還するというファンドもごく一部ですがあります。こうしたファンドの場合不動産の運用収益と、売却価値の双方を検討する必要があります。
事業性資金
事業者が短期で機動的な事業性(運転)資金を手に入れたい場合、ソーシャルレンディングを利用します。銀行ならば低利で借りられますが、審査まで時間がかかる、創業してまもない事業者、また事業の性質によっては、融資をしてくれないなど使い勝手が悪い点もあります。
それに対してソーシャルレンディング運営会社はあくまで「返済できるか」で融資判断を行うので、銀行が融資できない事業者にも融資が行なえます。
融資先の事業は実に様々ですが「不動産」、「自然エネルギー」ではないファンドをこの記事は「事業性資金」としています。
投資判断のポイント、注意点
事業の内容
前述したとおり「事業性資金」といっても実に幅が広く様々なものがあります。仕入れ代金、不動産ローンファンドの貸付資金、店舗経営、エンターテイメント、コインランドリー、物品のレンタルなど様々です。その事業内容を見て自分が投資しても良いと思えるのか、なぜ銀行から融資がうけられないのか?をよく検討しましょう。
担保の価値
不動産ファンドは投資対象の不動産が担保になっていることが大半です。しかし事業性ファンドにおいては不動産担保に加えて売掛債権、融資先の株式などが担保になっていることがあります。こうした債権担保は不動産よりは売りやすいため、デフォルト時の早期の回収が期待できます。
しかし、デフォルトするような事業者の債権がどの程度の価値があるのか?には十分注意する必要があります。
自然エネルギー発電
太陽光、風力、バイオマス、水力発電所、また関連施設を建築、売却することにより収益を得るファンドです。ソーシャルレンディングではない事業投資型ファンドにおいては、例えば太陽光発電所を運営し、その売電収益を返済原資にあてるものがあります。こうしたものは運用期間が10年を超えるなど、運用期間が長目です。
しかしソーシャルレンディングにおいては、ほぼ100%が売却によるエグジットを目指すものです。運用期間が数ヶ月から数年というものが大半です。
投資判断のポイント、注意点
自然エネルギーの特色
自然エネルギーはそれぞれ特色があります。太陽光は夜発電ができない。風力発電は太陽光に比べて大規模であり資金を必要とする。バイオマスは燃料の調達が必要。といったことです。基本的には各ファンドとも運営会社がデューデリジェンスを行い、事業性が認められるものに融資しています。しかし、投資家が各自然エネルギーの特色を把握しておくことは、リスクとリターンの計算、また自然エネルギーごとの割り振り金額を計算する上で無意味ではないと思います。
売電価格
自然エネルギーファンドではたいていその施設の「売電価格」が示されています。
売電価格とその発電所が発電した電力を一定期間その価格で買い取ってもらうことが保証された金額を指します。
国の固定価格買取制度により、その発電所が認定された時期により売電価格は異なります。自然エネルギー発電促進のために、かつてこの売電価格は高く設定されていました。しかし供給過剰を防ぐためにも年々固定価格は減少しています。
売電価格が高いほうが収益性は見込めるのでエグジットに有利のように思えます。ただしば売電価格の減少は自然エネルギー設備の普及により建設費用が下がったためでもあります。
個別のファンドへの投資を考える際に頭に入れておいたほうがよいでしょう。
国内外の個人向け融資
事業者ではなく、個人に資金を貸付けその利息を返済原資にあてるものです。「消費者金融ローンファンド」といった言い方が適当でしょう。海外ソーシャルレンディングはこの形で始まりました。国内ソーシャルレンディングも初期はこの形で運用されていましたが、
A.事業者の消費者金融ローンの融資審査・回収ノウハウの欠如
B.国内には海外のように「クレジットスコア」という信用を図る便利な指標がなかった
ことから、いずれも優良な融資先を開拓できず多くのファンドが遅延・デフォルトとなりました。現状すべての運用会社が国内消費者金融ローンファンドからは撤退しています。
しかしクラウドクレジットの海外の消費者に融資するファンドは好調な運用成績を上げています。同社は、まず現地の優良な金融事業者と提携しそこを介して融資を行うことで、高利回りのファンドの運用を可能としています。マイクロファイナンス、自動車担保ローン、個人事業者、消費者への貸付など様々なものがあります。
以下、ポイントについては海外であることを踏まえて記します。
投資判断のポイント、注意点
カントリーリスク
ファンドに投資する際には、そのファンドの投資対象の国固有のリスク、インフレ率が高い、治安、経済基盤、国そのもののデフォルトリスク、その他もろもろを考える必要があります。もちろん運営会社はそれを踏まえた上で回収可能性が高いファンドを組成しています。
ただそれだけに頼ることなく、自身でも勉強するべきでしょう。上記不安定要素が小さいファンドは望めるリターンも小さいであろうことには留意しておく必要があります。リスクをとって良い分のお金は高利回りファンドに充てるという方法は、利益を最大化する上で有効です。
為替リスク
ドル、ユーロ以外の通貨を用いている国は、ファンドの償還時には、大きく円高が進んでおりその為替損を被る可能性があることは踏まえておきましょう。ドル、ユーロも油断は大敵です。クラウドクレジットのファンドは比較的長期のものが多いので、ある程度長期の為替見通しを考慮に入れたほうがよいでしょう。
為替ヘッジができるファンドもありますが、その手数料の分利回りが小さいこと、もし為替が有利に動いた場合、その利益を得られないことに留意する必要があります。
スプレッド
ファンドを運用するためには投資家から集めた日本円をその国の通貨と交換する必要があります。その際に生じる手数料を「スプレッド」とこの記事では称します。基本的にドル、ユーロ以外のスプレッドは高く利益を押し下げる要因となることに注意しましょう。
提携会社
クラウドクレジットの海外消費者ローンファンドは前述の通り、海外の金融機関と提携してそこに融資、あるいは投資(債権買取)します。さらにその現地金融機関が多くの個人個人に貸し付けています。どのような個人に融資しているかを調べるのは現実的ではないので、その直接の融資先である金融機関をよく調べましょう。
実績、運用収益、経営者、様々な情報が開示されています。
社債・貸付債権の購入、高金利通貨預金
社債や貸付債権へ投資し、その償還、ないし取り立てが返済原資となるファンドです。高金利通貨預金で運用するファンドも、運用期間が決まっているのでこのカテゴリに加えます。
この手のファンドは数が少ないのですが、その分しっかり運営会社によって練られたものが多いので、リスク分散の上から、投資対象に加えてもよいでしょう。以下、ポイントを上げていきます。
投資判断のポイント、注意点
債権発行者(債務者)
社債を発行する事業者、貸付債権の債務者、また外貨預金ではその預け先の国のカントリーリスクなどをよく調べ、リスクとリターンが見合ったものであるかをよく考えましょう。
投資スキーム
単に社債に投資する、ある一定期間外貨預金として預けるというのは仕組みが簡単です。一方で貸付債権の場合、長期返済が延滞した債権を元々の債権者から安く購入し、その回収を債務者から行うといった少し複雑な投資スキームである場合があります。
投資スキームをよく理解したうえで投資しましょう。
M&Aの資金
上場会社が中小企業のM&Aを行う際の資金を募集するファンドをクラウドバンクが販売したことがあります。
これについては単独のファンドの話となってしまうので、ポイントの説明はしません。ただし、こうしたM&Aを代表とするユニークなファンドにおけるポイントを私の過去の経験から記したいと思います。
投資判断のポイント、注意点
ユニークな初号ファンドにハズレ無し
ソーシャルレンディング運営会社は他社との差別化のため、日々優良な融資先の開拓、新しい投資スキームのファンド開発を行っています。実績のある会社ならば十分にデューデリジェンス(投資妥当性の確認)が行われた上で、投資家に販売されたと考えてよいでしょう。
こうしたユニークなファンドが元本割れを起こした事例はほとんどありません。少なくとも「初号ファンド」において、私は例を上げられません。営業会社もこうしたファンドには、メンツをかけて最大限の償還努力をすること、また「その時」においては、本当に狙い目の投資対象であるためと考えられます。
ファンドの過去の実績はありません。そのことを踏まえた上でファンドを販売する会社が実績、信用があるならばそこに投資するつもりで、一定額の投資をするのも、ソーシャルレンディングにおける一つの投資手法かと思います。もちろん投資スキームをよく理解した上です。
こうしたファンドの初号ファンドは比較的利回りが高いことも付記しておきます。
ユニークなファンドの旬は短い
クラウドバンクのM&Aファンドは上場企業への融資です。上場企業が倒産するという、新聞の一面、ないし片隅には載るだろう事件が起きない限りは確実な償還が望めるファンドでした。
ただしこうしたユニークなファンドは継続して募集されないことも多いことにはご留意ください。クラウドバンクのM&Aファンド、クラウドクレジットのペルーの貸付債権買取回収ファンド(ペルー小口債務者支援プロジェクト)、SAMURAIの高金利通貨預金ファンド、いずれも現在は募集がありません。
理由は様々でしょうが、特にここでは触れません。
AQUSHがかつて募集した米国ソーシャルレンディングのLending Clubに投資できるファンド(AQUSHグローバルファンド)も短命でした。私が例を上げられないだけで、償還はしっかり行ったが長続きしなかったユニークなファンドはまだまだあるでしょう。
最後に
ソーシャルレンディングのファンドにおいて、行われることは事業者、消費者への融資です。そしてその利息が投資家への分配に充てられます。
仕組みは非常に単純ですが、その融資先がその利息をどうやって稼ぎ出すか、つまり返済原資には最低限の知識を持つようにしましょう。
将来的な不動産市場の見通しを見て、ソーシャルレンディングに投資するファンドのどのくらいを不動産ファンドに割り当てるのか?自然エネルギーはどうか?このくらいのビジョンは持っておいたほうがよいでしょう。
返済原資において抑えるべきポイントを表にまとめました。ご参考ください。